大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)300号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を検討する。

1 成立に争いない甲第二号証(願書添付の明細書)及び第三号証(昭和五八年一〇月二四日付け手続補正書)によれば、本願考案は左記のような技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙図面一参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願考案は、転写マーク等として用いる転写シートに関する(明細書第二頁第七行及び第八行)。

従来の転写シートは、第5図に示されているように剥離シート101の上に剥離層102を形成し、その上に、熱可塑性接着剤と印刷色材を混合したものによつて印刷模様103を形成し、右印刷面に被転写物を重ね合わせて加熱加圧処理を施した後、剥離シート101を剥離層102において引き剥がすことによつて、印刷模様103を被転写物上に転写していた。しかしながら、印刷模様を接着剤と印刷色材を混合したものによつて形成するため、印刷材料や版材を加熱しながら印刷せざるを得ず極めて煩雑であり、製造機械も複雑となるのみならず、印刷方式も凹版及び孔版印刷に限定されていた(同第二頁第九行ないし第三頁第五行)。

本願考案の目的は、印刷模様を従来の印刷方式によつても容易に形成でき、生産性の向上と製造機械の簡易化を実現し、かつ、転写後の画線構成層を保護して褪色を防止し得る転写シートを提供することにある(同第三頁第一二行ないし第一九行)。

(二) 構成

右課題を解決するために、本願考案はその要旨とする構成を採用したものである(手続補正書第三頁第二行ないし第一二行)。

第1図ないし第4図は、本願考案の実施例を示すものであつて、(1)は剥離シート、(2)は保護膜、(3)及び(3)´は印刷層、(4)は箔押層、(5)は画線構成層、(6)は接着剤層である(明細書第三頁第二〇行ないし第四頁第一一行)。

(三) 作用効果

本願考案によれば、凹版及び孔版印刷に限らず各種の印刷方式によつて印刷層を形成することができ、しかも加熱しながら印刷する必要がないので、印刷機械を簡易化し生産性の向上が可能である。また、各層を積層したシート状の帯を形成した後に所望の輪郭に切り抜けば、生産効率を向上し得る。のみならず、保護膜の材料を適宜に選択することによつて、転写後の画線構成層を被覆保護し褪色の防止にも役立つ(同第八頁第一二行ないし第九頁第四行)。

2 相違点<2>の判断について

原告は、本願考案において画線構成層を形成するシートフイルムは、所定の色彩に着色されたシートフイルムを積層して成るシートフイルム層であることを特徴とすると主張する。しかしながら、本願考案の登録請求の範囲には「シートフイルム」と記載されているのみであるから、原告の右主張は考案の要旨に基づかないものであつて失当である。

また、原告は、周知例に記載されている「アルミ被膜」は本願考案の「シートフイルム」とは構造を全く異にすると主張する。しかしながら、審決の趣旨が、周知例に記載されている「着色膜」が本願考案の「シートフイルム」との間に差異をみいだせないとするものであつて、周知例に記載されている「アルミ被膜」と本願考案の「シートフイルム」とを対比しているのでないことは明らかである。

そこで、周知例記載の技術的事項を検討するに、成立に争いない甲第七号証によれば、周知例記載のものは合成樹脂材製品等の表面に金色あるいは銀色を配色した色模様を容易に転写し得る転写フイルムに関する考案であつて(第一欄第二九行ないし第三一行)、透明塗膜層2の上面に模様3等を色彩印刷した後、無色あるいは着色の透明膜4を模様3の周囲及び間隙から露出するように印刷し(模様3等及び透明膜4以外の部分には不透明膜を塗着し)、最後に全面にわたつてアルミ膜5を積層することを要旨とし(第四欄第一一行ないし第一九行。別紙図面三参照)、透明膜4を黄色透明インキで印刷したときは透明膜4を通してアルミ膜5から反射する光線によつて模様3等の縁取り色は金色を呈し、透明膜4を無色透明インキで印刷したときは模様3等の縁取り色は銀色を呈するものであると認められる(第二欄第五行及び第六行、第一二行、第三四行ないし第三八行)。

一方、本願考案の登録請求の範囲には「シートフイルム」と記載されているのみであつて、本願考案はシートフイルムの性状の限定をその要旨としていないものであるところ、右認定事実によれば、周知例に記載されている無色あるいは着色された「透明膜4」が、本願考案が要旨とする「シートフイルム」の概念に含まれることは明らかというべきである。

したがつて、本願考案の画線構成層との間に差異を見いだすことができない層(印刷模様と着色膜とを組み合わせた層)を有する転写シートは本件出願前に周知であるとした審決の認定に、誤りはない。

3 本願考案が奏する作用効果について

原告は、本願考案の画線構成層を構成するシートフイルムとして「伸縮性あるいはバリヤ性などが優れたもの」を選択することによつて奏される作用効果の顕著性を主張する。

しかしながら、本願考案がシートフイルムの性状の限定をその要旨としていないことは前記のとおりであるから、画線構成層を構成するシートフイルムが「伸縮性あるいはバリヤ性などが優れたもの」であることを前提とする作用効果の主張は、考案の要旨に基づかないものであつて失当である。

4 以上のとおりであるから、審決の相違点<2>の判断及び作用効果の認定は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。

所定の輪郭を有する剥離シートの一表面に保護膜を形成し、該保護膜の上に、「印刷層、箔を重合させ加熱された版を押し当てて接着されることにより形成される箔押層、シートフイルム」のうち少なくとも二つの組合わせから成る、転写すべき模様あるいは文字等の、画線構成層を形成し、

該画線構成層の上に、接着剤層を形成し、

前記保護膜を、より下層の「印刷層、箔押層、シートフイルム」が透視し得るように構成し、

全体として剥離シートと同一の所定の輪郭に形成することを特徴とする

転写シート(別紙図面一参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

(以下省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!